題目:キリンの斑論争、寺田寅彦と複雑系科学
講師:松下貢氏 (中央大学 理工学部 名誉教授)
日時:2014年7月3日(木)16:00~
場所:55号館S棟2階第4会議室
概要:
動物園に行くと、キリンの斑模様、ヒョウの斑点、トラやシマウマの縞模様など、体表の鮮やかな模様に事欠かない。水族館で見られる魚の体表模様も同様である。動物たちがなぜそれぞれの種に固有な模様をもつのかは、進化に関わる生物学的な問題であろう。それに対して、あのような模様が個体の成長の過程でどのようにしてできるのかは、物理学や化学に関わるパターン形成の問題である。今から80年ほど前に、物理学者の平田森三がキリンの斑模様のでき方について大胆な仮説を発表した。彼はそれが田んぼやぬかるみの泥が乾いたときにできる割れ目模様に酷似していることに気付き、胎児のときの急速な成長で被膜が破れてできた割れ目の名残りが斑模様ではないかと考えたのである。
それに対して当時の生物学者たちは感情的なほど激しく反論し、平田がそれにまた反論するという、いわゆる「キリンの斑論争」が起こった。この論争には、平田が斑模様のでき方(プロセス)を問題にしているのに対して、生物学者が体表の組織(物質)の違いを問題にするという、明らかな食い違いがあった。そこで平田の師にあたる寺田寅彦がこの問題の真の解決には物理学や化学がまだ十分に進歩していないことを指摘し、今後どのような研究をすべきかを議論して両陣営をなだめ、論争を一応収束させたのである。
寺田寅彦は夏目漱石の弟子で有名な随筆家として一般に知られている。しかし、彼は金米糖の角や線香花火、雷や雪の結晶、電車やエレベータの混雑など、様々な日常的な現象について実験したり観察したりして研究した物理学者である。そしてそれらについて思索したことを端正な日本語の随筆に残している。さらに重要なことは、彼が90年近くも前に取り上げて研究したことが、最近になって複雑系科学として世界的に研究されるようになったことである。本セミナーでは、「キリンの斑論争」の経緯、寺田寅彦の役割と彼の幅広い業績を紹介するとともに、彼の研究の発展とみることができる複雑系科学をわかりやすく説明する。
#6-140703 松下貢氏 (中央大学 理工学部 名誉教授)
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