#6-140703 松下貢氏 (中央大学 理工学部 名誉教授)

on 6月 11th, 2014 by admin

題目:キリンの斑論争、寺田寅彦と複雑系科学
講師:松下貢氏 (中央大学 理工学部 名誉教授)
日時:2014年7月3日(木)16:00~
場所:55号館S棟2階第4会議室
概要:
 動物園に行くと、キリンの斑模様、ヒョウの斑点、トラやシマウマの縞模様など、体表の鮮やかな模様に事欠かない。水族館で見られる魚の体表模様も同様である。動物たちがなぜそれぞれの種に固有な模様をもつのかは、進化に関わる生物学的な問題であろう。それに対して、あのような模様が個体の成長の過程でどのようにしてできるのかは、物理学や化学に関わるパターン形成の問題である。今から80年ほど前に、物理学者の平田森三がキリンの斑模様のでき方について大胆な仮説を発表した。彼はそれが田んぼやぬかるみの泥が乾いたときにできる割れ目模様に酷似していることに気付き、胎児のときの急速な成長で被膜が破れてできた割れ目の名残りが斑模様ではないかと考えたのである。
 それに対して当時の生物学者たちは感情的なほど激しく反論し、平田がそれにまた反論するという、いわゆる「キリンの斑論争」が起こった。この論争には、平田が斑模様のでき方(プロセス)を問題にしているのに対して、生物学者が体表の組織(物質)の違いを問題にするという、明らかな食い違いがあった。そこで平田の師にあたる寺田寅彦がこの問題の真の解決には物理学や化学がまだ十分に進歩していないことを指摘し、今後どのような研究をすべきかを議論して両陣営をなだめ、論争を一応収束させたのである。
 寺田寅彦は夏目漱石の弟子で有名な随筆家として一般に知られている。しかし、彼は金米糖の角や線香花火、雷や雪の結晶、電車やエレベータの混雑など、様々な日常的な現象について実験したり観察したりして研究した物理学者である。そしてそれらについて思索したことを端正な日本語の随筆に残している。さらに重要なことは、彼が90年近くも前に取り上げて研究したことが、最近になって複雑系科学として世界的に研究されるようになったことである。本セミナーでは、「キリンの斑論争」の経緯、寺田寅彦の役割と彼の幅広い業績を紹介するとともに、彼の研究の発展とみることができる複雑系科学をわかりやすく説明する。

#5-140515 丸野健一氏 (早稲田大学 基幹理工学部 応用数理学科)

on 4月 23rd, 2014 by admin

題目:非線形波動と自己適合動的格子スキーム
講師:丸野健一氏 (早稲田大学 基幹理工学部 応用数理学科)
日時:2014年5月15日(木)16:30~
場所:63号館1階数学応数合同会議室
概要:
 可積分系(ソリトン方程式)の可積分性を保つ離散化は、1970年代中盤の広田良吾氏とMark Ablowitz氏による先駆的な研究を契機として、物理学、幾何学、代数学、代数幾何学、組み合わせ論、数値計算など様々な分野と結びつき発展してきた。
 広田氏の提案した離散化手法を基盤にしてこれまで離散化されていなかった解に特異性を持つようなソリトン方程式(例えばCamassa-Holm方程式やHarry Dym方程式)の可積分性を保つ離散化を行うと、 大変形が生じる領域に自動的に細かいメッシュを自動生成していく差分スキーム(自己適合動的格子スキーム, self-adaptive moving mesh scheme)が導出されることを我々は示したが、講演ではその自己適合動的格子スキームの構成法と数理的からくりについて詳しく解説する。
 一例として、短パルス方程式と呼ばれる非線形光学において導出された方程式を取り上げる。これは多ソリトン解をもち、Lax対を持つ可積分な非線形波動方程式であるが、短パルス方程式の自己適合動的格子スキームも多ソリトン解を持ち、Lax対を持つ。WKI 形式と呼ばれるLax対を持つソリトン方程式を可積分性を保ちながら離散化すると、自己適合動的格子スキームを導出することができる。自己適合動的格子スキームの背後にはホドグラフ変換と呼ばれる保存量と深く関連する座標変換があり、離散化した保存則の保存密度が自己適合動的格子スキームの格子間隔になる。このことによって自己適合動的格子スキームは非常に精度のよい数値計算法となる。
 講演では自己適合動的格子スキームを用いた数値実験例をいくつか紹介する。また、ソリトン方程式は微分幾何学的な視点で捉え直すこともできるが、離散微分幾何学(差分幾何学)的な視点から離散化されたソリトン方程式を捉え直せば自己適合動的格子スキームが自然に導出できることを解説する予定である。時間があれば、ソリトン方程式以外の(非可積分な)非線形偏微分方程式の自己適合動的格子スキームの構築についても紹介したい。

#4-131216 八柳祐一氏 (静岡大学 教育学部)

on 11月 13th, 2013 by admin

題目:負温度点渦系での平衡状態への緩和を記述する運動論的方程式の導出
講師:八柳祐一氏 (静岡大学 教育学部)
日時:2013年12月16日(月)16:00~
場所:62号館1階大会議室
概要:
 本研究の最終目的は,長距離相関で支配される系に広く見られる自己組織化現象の統一的理解である。自己組織化とは,「ある系が,外部からの特別な指定を受けることなく,特別な空間構造,特別な時間的振る舞い,特別な機能などを自ら形成すること」である。自己組織化現象は,広く,量子渦,重力多体系,非中性純電子プラズマ系,3次元乱流,2次元乱流で見られる。これらは,全てポアソンオペレータに対するGreen関数が長距離相関的である。この中で,我々は2次元乱流に特徴的なインバースカスケードという現象に興味を持った。
 2次元乱流でのインバースカスケードを理解する端緒となる研究は,Onsagerが1949年に発表した「絶対温度が負となる点渦系」に関するものだろう。OnsagerはBoltzmann因子exp(-βH)のβが負となれば,エネルギーが大きい側の存在確率があがり,木星の大赤斑に代表される大規模構造形成が自然に説明できるのではないかと予想した。
 一方で,Onsagerが研究対象とした点渦系は2次元Euler方程式の解であることが昔から知られている。しかし,理論的には,そもそもデルタ関数による離散解はEuler方程式の形式的な解にすぎず,理論的な定式化は困難である。さらに,数値的にも計算密度が粒子数の2乗に比例するため,直接数値計算の対象としては重い。よって,その簡便性に反して,点渦系の理解はあまり進んでいないというのが現状である。
 今回の講演では,前述の歴史を踏まえ,「負温度」というキーワードで結ばれた実験的/数値的結果の紹介に加えて,最近の結果である点渦系の平衡解への漸近の様子を記述する運動論的方程式についての話をしたい。多体問題において,N体分布関数の時間発展を与えるLiouville方程式は時間的に可逆であり,統計的平均操作を行うことにより,不可逆なBoltzmann方程式が得られる。さらにプラズマでは長距離相互作用に由来する集団運動が支配的であり,Boltzmann方程式の右辺に現れる衝突項は無視可能なケースが多いことから,衝突項をゼロとした運動論的方程式が使われることも多く,これをVlasov方程式とよぶ。我々は同様の階層構造が2次元Euler方程式にあるものと予想し,Boltzmann方程式に相当する方程式を解析的に導出することに成功した。この衝突項は,系の平均場エネルギーを保存する,H定理を満たし平衡状態への緩和を保証する,平衡状態へ達したときにゼロとなる,など物理的に良い性質を持っていることが明らかになった。これらの良い性質は,一言で言うと,今回導いた衝突項がFokker-Planck型をしていることに由来する。これらのことについて,時間の許す限り話をしたい。

#3-131016 野邊厚氏(千葉大学 教育学部 数学教室)

on 9月 19th, 2013 by admin

題目:セルオートマトンの幾何学 -トロピカル超楕円曲線とソリトンセ
ルオートマトン-
講師:野邊厚氏(千葉大学 教育学部 数学教室)
日時:2013年10月16日(水)17:30~
場所:63号館1階数学応数合同会議室
概要:
セルオートマトンとは局所的な規則が系の大域的挙動を支配する離散力学系である.
このような局所ー大域プロセスは多くの自然現象に共通する性質を単純化したものと
考えられるため,セルオートマトンは様々な自然現象を解析する有用な道具として認識されている.
さらに,セルオートマトンに現れるすべての変数は離散的な値をとるので,
セルオートマトンに関する計算はコンピュータを用いて厳密に遂行可能であり,
誤差のない大規模シミュレーションも行われている.
しかし,このような“究極の離散性”は諸刃の剣であり,その情報量の少なさのため,
従来の数学的手法をセルオートマトンの解析に適用することは困難である.
(例えば,微分方程式の理論を用いてセルオートマトンの厳密解を求めることができるだろうか?)
本講演では,ここ十数年ほどの間,おもに可積分セルオートマトンの解析において
威力を発揮した新しい数学的道具である「超離散化」と「トロピカル幾何学」について
入門的解説を行う.とくに,トロピカル超楕円曲線の加法が
ソリトンセルオートマトン(箱玉系)の時間発展を導く様を,
具体例の計算を中心にお見せする予定である.

#2-130711 山田健太氏(早稲田大学 高等研究所)

on 6月 6th, 2013 by admin

題目:ソーシャルデータに対する統計物理学的アプローチ :ブログ・twitterデータの解析とモデル化
講師:山田健太氏(早稲田大学 高等研究所)
日時:2013年7月11日(木)17:30~
場所:55号館S棟2階 第4会議室
概要:
コンピュータの発達に伴う高度情報化により,ウェブ上での人々の書き込み,携帯電話の通話記録,PASMOなどの乗車記録など 詳細な行動履歴がデータとして記録されるようになり,最近ではビッグデータ解析という言葉も新聞やテレビなどでしばしば 聞くようになった.本発表では,詳細なデータ解析から経験則を確立し,単純化した数理モデルによってこの経験則を再現することにより現象を理解し,応用を目指すと いう基礎科学,特に物理学の手順でビッグデータ解析を行った結果を紹介する. 最初に,約3000万人のブロガーからランダムサンプリングされた30万人のブロガーが投稿した約5000万記事のデータを解析した結果を報告す る.個人が自由意志で書き込んだブログも大量に集めると,例えば流行語がどのように広がったかなど, ブームの形成や収束を定量的に解析することが可能となる. また,ブロガーの行動をモデル化したブログ投稿モデルを構築しブロガーというミクロな構成要素がどのような行動をすると, ブームというマクロな現象が創発されるかを明らかにする.

参考文献: 高安美佐子, 山田健太(3,4章担当),他“ソーシャルメディアの経済物理学”,日本評論社,2012

#1-130517 竹内一将氏(東京大学 理学系研究科)

on 5月 8th, 2013 by admin

題目:界面成長の普遍法則をめぐって - 物理と数学の不思議な関係
講師:竹内一将氏 (東京大学 理学系研究科)
日時:2013年5月17日(金)17:30~
場所:55号館S棟2階 第3会議室
概要:
成長する界面が織りなすゆらぎの普遍法則と、ランダム行列理論や組合せ論との不思議な関係を紹介する。シャツにこぼしたコーヒーのしみや紙の燃え広がりなど、界面の成長には凸凹な模様が伴うことが多い。我々はこれと似た界面成長を液晶乱流で実現し、界面の凸凹具合を高精度測定した結果、その分布はガウス型ランダム行列の最大固有値分布にぴたりと一致することを発見した。これは実は界面成長の数理模型で近年厳密に導出された結果と一致し、単純な界面成長には、ゆらぎ分布をはじめ、様々な統計量が従う普遍法則が存在することを意味している。講演では Kardar-Parisi-Zhang (KPZ) 普遍クラスと呼ばれるこの普遍法則についての実験結果をまとめ、背後にある非自明な数理や普遍性が様々な実験事実として浮かび上がる様をご覧いただきたい。

Physics and Mathematics Colloquium

on 5月 8th, 2013 by admin

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