題目:負温度点渦系での平衡状態への緩和を記述する運動論的方程式の導出
講師:八柳祐一氏 (静岡大学 教育学部)
日時:2013年12月16日(月)16:00~
場所:62号館1階大会議室
概要:
本研究の最終目的は,長距離相関で支配される系に広く見られる自己組織化現象の統一的理解である。自己組織化とは,「ある系が,外部からの特別な指定を受けることなく,特別な空間構造,特別な時間的振る舞い,特別な機能などを自ら形成すること」である。自己組織化現象は,広く,量子渦,重力多体系,非中性純電子プラズマ系,3次元乱流,2次元乱流で見られる。これらは,全てポアソンオペレータに対するGreen関数が長距離相関的である。この中で,我々は2次元乱流に特徴的なインバースカスケードという現象に興味を持った。
2次元乱流でのインバースカスケードを理解する端緒となる研究は,Onsagerが1949年に発表した「絶対温度が負となる点渦系」に関するものだろう。OnsagerはBoltzmann因子exp(-βH)のβが負となれば,エネルギーが大きい側の存在確率があがり,木星の大赤斑に代表される大規模構造形成が自然に説明できるのではないかと予想した。
一方で,Onsagerが研究対象とした点渦系は2次元Euler方程式の解であることが昔から知られている。しかし,理論的には,そもそもデルタ関数による離散解はEuler方程式の形式的な解にすぎず,理論的な定式化は困難である。さらに,数値的にも計算密度が粒子数の2乗に比例するため,直接数値計算の対象としては重い。よって,その簡便性に反して,点渦系の理解はあまり進んでいないというのが現状である。
今回の講演では,前述の歴史を踏まえ,「負温度」というキーワードで結ばれた実験的/数値的結果の紹介に加えて,最近の結果である点渦系の平衡解への漸近の様子を記述する運動論的方程式についての話をしたい。多体問題において,N体分布関数の時間発展を与えるLiouville方程式は時間的に可逆であり,統計的平均操作を行うことにより,不可逆なBoltzmann方程式が得られる。さらにプラズマでは長距離相互作用に由来する集団運動が支配的であり,Boltzmann方程式の右辺に現れる衝突項は無視可能なケースが多いことから,衝突項をゼロとした運動論的方程式が使われることも多く,これをVlasov方程式とよぶ。我々は同様の階層構造が2次元Euler方程式にあるものと予想し,Boltzmann方程式に相当する方程式を解析的に導出することに成功した。この衝突項は,系の平均場エネルギーを保存する,H定理を満たし平衡状態への緩和を保証する,平衡状態へ達したときにゼロとなる,など物理的に良い性質を持っていることが明らかになった。これらの良い性質は,一言で言うと,今回導いた衝突項がFokker-Planck型をしていることに由来する。これらのことについて,時間の許す限り話をしたい。
#4-131216 八柳祐一氏 (静岡大学 教育学部)
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